限界研blog

限界研の活動や記事を掲載します。

全開レビューEX

デフレ化した世界の中で、輝くのは知性ではなく野生――斎藤環『世界が土曜の夜の夢なら』【評者:海老原豊】

とりあげる本 斎藤環『世界が土曜の夜の夢なら』(角川書店)世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析作者: 斎藤環出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)発売日: 2012/06/30メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 120回この商品を含むブ…

荻上チキ『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』【評者:海老原豊】

僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか 絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想 (幻冬舎新書)作者: 荻上チキ出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2012/11/30メディア: 新書購入: 5人 クリック: 51回この商品を含むブログ (22件) を見る 「ダメ出し」をしない…

にょんもりとした読後感――古市憲寿『僕たちの前途』(講談社)【評者:海老原豊】

僕たちの前途作者: 古市憲寿出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/11/22メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 44回この商品を含むブログ (18件) を見る若手社会学者の古市憲寿の最新刊は起業(家)について。といっても、起業ときいてまっさきに連想されるよ…

津田大介『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)【評者:海老原豊】

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)作者: 津田大介出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2012/11/13メディア: Kindle版購入: 4人 クリック: 56回この商品を含むブログ (28件) を見る 日本におけるツイッター普及の立役者ジャーナリスト津田大介が、ツイッタ…

Jコレ読破8 田中啓文『忘却の船に流れは光』

忘却の船に流れは光 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)作者: 田中啓文出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2003/07メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (25件) を見るそこは零落した科学技術と合理精神が宗教に代替された世界。世界の縁は…

岡崎京子原作・蜷川実花監督作『ヘルタースケルター』【評者:中里昌平】

「岡崎京子はまだ、死んでない」 岡崎京子原作・蜷川実花監督作『ヘルタースケルター』 評者:中里昌平 あたしは絶対しあわせになってやるじゃなかったらみんな一蓮托生で地獄行きよちくしょう さもなくば犬のようにくたばってやる (岡崎京子『ヘルタースケ…

デモ/蜂起の新たな時代 【笠井潔】

デモ/蜂起の新たな時代 笠井 潔1 制度的アイデンティティの危機 チュニジアのジャスミン革命やムバラク政権を倒したエジプト革命、アメリカの「オキュパイ・ウォールストリート」、ギリシアやスペインの反貧困運動をはじめ、2010年末から11年にかけ…

早川Jコレクション読破への道 7 小林泰三『海を見る人』

早川書房のJコレクション、全部で何冊あるんだっけ…。ともかく! ちびりちびりと紹介していきます。 海を見る人 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)作者: 小林泰三出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2002/05メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 120回この…

ダンカン・ワッツ『偶然の科学』(早川書房)【評者:海老原豊】

友達の友達の友達の友達の友達の友達ってだれ偶然の科学作者: ダンカン・ワッツ,Duncan J. Watts,青木創出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2012/01/25メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 63回この商品を含むブログ (35件) を見る友達の友達の友達の友達の…

Jコレ読破6 八杉将司のSF小説『Delivery』 

これまでのあらすじ★ 日本のゼロ年代SFを牽引してきた早川書房のJコレクション。その読破への道を歩み始めた一人の男がいた。彼の道のりは、険しく長い…… Delivery (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)作者: 八杉将司出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2012/…

暴力はコミュニケーションの中に――『アウトレイジ ビヨンド』と『危険なメソッド』

藤田直哉※『アウトレイジ ビヨンド』と『危険なメソッド』の内容と結末に触れています。 暴力を“観せる”のが得意な、北野武と、デヴィッド・クローネンバーグという二人の監督がいる。彼らの最新作『アウトレイジ ビヨンド』と『危険なメソッド』は、偶然な…

『海老原豊評論集』より演劇論まえがき

これまでのあらすじ☆ 第15回 文学フリマに出店します!! http://bunfree.net/ 日時 11月18日(日) 11:00〜17:00 場所 東京流通センター ブース 限界研 (エ-32) 新刊『genkai vol.2』は『渡邉大輔評論集』と『海老原豊評論集』の2本立て。 [[『海老原豊…

Jコレクション 読破への道 その5 山本弘『まだ見ぬ冬の悲しみも』

これまでのあらすじ☆ 第15回 文学フリマに出店します!! http://bunfree.net/ 日時 11月18日(日) 11:00〜17:00 場所 東京流通センター ブース 限界研 (エ-32) 新刊『genkai vol.2』は『渡邉大輔評論集』と『海老原豊評論集』の2本立て。エスエフのイ…

Jコレクション読破への道4 西島大介『凹村戦争』

これまでのあらすじ☆ 第15回 文学フリマに出店します!! http://bunfree.net/ 日時 11月18日(日) 11:00〜17:00 場所 東京流通センター ブース 限界研 (エ-32) 新刊『genkai vol.2』は『渡邉大輔評論集』と『海老原豊評論集』の2本立て。エスエフのイ…

フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

これまでのあらすじ☆ 第15回 文学フリマに出店します!! http://bunfree.net/ 日時 11月18日(日) 11:00〜17:00 場所 東京流通センター ブース 限界研 (エ-32) 新刊『genkai vol.2』は『渡邉大輔評論集』と『海老原豊評論集』の2本立て。『海老原豊評…

ブラック★ロックシューター論〈空気系〉作品が隠蔽してきたものの暴露【評者:旭秋隆】

「制服切り刻まれて、心を刻まれるより、自分が切り刻まれるほうがマシだ!」 この台詞は主人公黒衣マトの友人、神足ユウが最終回で叫んだものだ。そして、この台詞はTVアニメシリーズ『ブラック★ロックシューター』で描かれていること、即ち、現代の若者、…

SF論争史にみる二項対立の運動−−巽孝之編『日本SF論争史』(勁草書房)

これまでのあらすじ☆ 第15回 文学フリマに出店します!! http://bunfree.net/ 日時 11月18日(日) 11:00〜17:00 場所 東京流通センター ブース 限界研 (エ-32) 新刊『genkai vol.2』は『渡邉大輔評論集』と『海老原豊評論集』の2本立て。そのうちの『…

『海老原豊評論集』■序文 批評の運動

文学フリマで販売する限界研の新刊『海老原豊評論集』より序文 ■序文 批評の運動 本書を貫く考え方は〈二項対立の運動〉である。 〈二項対立の運動〉は一昔前の言葉を使うとジャック・デリダという思想家が提唱した脱構築といえる。一見すると対立しているA…

ハヤカワJコレクション読破への道 第3回 深堀骨『アマチャ・ズルチャ』

アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)作者: 深堀骨出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2003/08/28メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 4人 クリック: 77回この商品を含むブログ (37件) を見る『ミステリマガジン』『…

早川Jコレクション読破への道 第2回 上田誠『曲がれ! スプーン』

これまでのあらすじ ゼロ年代の日本SFを牽引してきた早川書房のSF叢書シリーズ「ハヤカワJコレクション」。全作品読破&レビューを目指して、一人の男が立ち上がってみたものの…。 曲がれ!スプーン (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) (ハヤカワSFシリーズ…

ハヤカワJコレクション読破への道 第1回 伊藤計劃『ハーモニー』

前口上 ゼロ年代の日本SFを牽引してきた早川書房のSF叢書シリーズ「ハヤカワJコレクション」。全作品読破&レビューを目指して、一人の男が立ち上がった…。 ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)作者: 伊藤計劃出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2…

「愛」じゃなくて「愛についての感じ」海猫沢めろん試論 第三回【評者:藤井義允】

「愛」じゃなくて「愛についての感じ」 ――海猫沢めろん試論―― 評者:藤井義允 第三回 ●問題提起確認 さて長くなったが今回でいよいよ海猫沢めろんが描く物語とはどのようなものか結論づけていきたいと思う。前回までは、海猫沢めろんの諸作品から愛について…

「愛」じゃなくて「愛についての感じ」海猫沢めろん試論 第二回【評者:藤井義允】

「愛」じゃなくて「愛についての感じ」 ――海猫沢めろん試論―― 評者:藤井義允 第二回 ●問題提起確認 前回では海猫沢めろん『左巻キ式ラストリゾート』から一つの問題提起を示した。それは、イメージやキャラクターといった理想や想像を愛する者は一体その何…

「愛」じゃなくて「愛についての感じ」海猫沢めろん試論 第一回【評者:藤井義允】

「愛」じゃなくて「愛についての感じ」 ――海猫沢めろん試論―― 評者:藤井義允 第一回●はじめに 五月某日。朝日カルチャーセンターで開催された、海猫沢めろんと詩人・穂村弘のチャリティーを兼ねた講演会「愛についての感じ、ください」を聴講しに行った時の…

攻殻機動隊 stand alone complex solied state society論【評者:旭秋隆】

攻殻機動隊 stand alone complex solied state society論 ――対「大きな現実」戦争の前夜―― 文責:旭秋隆 1. 目標と分析の視座の設定 現在の我々の生活において、インターネットや携帯電話というメディア*1は最早、無くてはならない存在となっている。そのた…

米澤穂信『ふたりの距離の概算』レビュー【評者:海老原豊】

米澤穂信『ふたりの距離の概算』(角川文庫) ゆっくりと確実に新陳代謝する古典部 評者:海老原豊 ※これは『21世紀探偵小説』所収の拙論「終わりなき「日常の謎」」では紙面の都合で詳述できなかった米澤穂信『ふたりの距離の概算』のレビュー。『21世紀探…

「日常」が成立しなくなった21世紀における「日常の謎」【評者:海老原豊】

「日常」が成立しなくなった21世紀における「日常の謎」 ―加納朋子、七河迦南、坂木司そして米澤穂信 評者:海老原豊 ※加納朋子「スイカジュースの涙」(『ななつのこ』所収)の結末に言及しています北村薫が『空飛ぶ馬』で〈円紫師匠〉シリーズを始めて以来…

ウィリアム・ギブスン『パターン・レコグニション』レビュー【評者:海老原豊】

ウィリアム・ギブスン『パターン・レコグニション』断片化する/した世界のなかで 評者:海老原豊 ウィリアム・ギブスン。サイバー・パンクの旗手。 という認識だけだと足りない。 『ニューロマンサー』(1984年)『カウント・ゼロ』(86年)『モナリザ・オ…

映画『けいおん!』海老原豊レビュー【評者:海老原豊】

日常の空気に瀰漫した終わり 『けいおん!』から『氷菓』へ 映画『けいおん!』 評者:海老原豊 ――でもね、会えたよ 素敵な天使に 卒業は終わりじゃない これからも仲間だから これは、映画『けいおん!』で、唯たち卒業を迎える軽音部の3年生たちが、たった…

川又千秋『幻詩狩り』レビュー【評者:海老原豊】

川又千秋『幻詩狩り』 以下は、『SFマガジン』(2012年8月号)の「現代SF作家論シリーズ」掲載のトマス・ラマール「川又千秋論 時の渦巻き『幻詩狩り』」を訳出したことと、その後、ラマール氏本人が来日して開催された国際 SFシンポジウム・キックオフ…