限界研blog

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Jコレクション 読破への道 その5 山本弘『まだ見ぬ冬の悲しみも』

これまでのあらすじ☆


第15回 文学フリマに出店します!!
http://bunfree.net/


日時 11月18日(日) 11:00〜17:00
場所 東京流通センター
ブース 限界研 (エ-32)


新刊『genkai vol.2』は『渡邉大輔評論集』と『海老原豊評論集』の2本立て。エスエフのイマがワカル、この一冊。


まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)



虚構(フィクション)の発想を科学(サイエンス)で裏付けることを得意とする山本弘の真価が如何なく発揮されていて、ジャンルとしてのSFと形式としての短編小説の相性の良さを改めて確認できる短編集。


冒頭の「奥歯のスイッチを入れろ」では、石ノ森章太郎サイボーグ009』に登場するような加速装置を実装したサイボーグが現実に存在したら、どのような科学的根拠が必要で、サイボーグの世界認識はいかなるものかを丹念に描出している。といってもSFをサイエンス・リアリズム小説へと限定する意図を山本がもっていないのは、科学的合理性からこぼれおちる人間の物語る力そのものをとらえようと試みていることからわかる。


C・L・ムーアとヘンリー・カットナーという二大作家が登場人物となる末尾の「闇からの衝動」で、クトゥルー神話という物語が実は現実であったかもしれないというもう一つの物語が提示される。短編集の冒頭の筆者も末尾の筆者も一貫して山本弘なのだ。この山本弘を支えるアイデンティティの根拠こそSFだ。


SFは「シュレディンガーのチョコパフェ」で描かれた、マッドサイエンティストによって破壊された世界に現出した亜夢界――夢と現実の中間にあり、お互いが認識し合うことでアイデンティティを保てる世界――のようなもの。そして亜夢界を漂う恋人二人は、レアなガチャポンを見つけて喜ぶ。亜夢界のようなSF世界を生きようとするのであれば、入念な手入れと後世への継承が不可欠であり、今までの膨大なSF作品への言及を意図的にすることで、山本弘はそれを行っている。