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津田大介『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)【評者:海老原豊】

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)


日本におけるツイッター普及の立役者ジャーナリスト津田大介が、ツイッターフェイスブックといったソーシャル・メディアがインフラとして成立しつつある現在の社会で、どのような政治が可能になるのか、はたまた実現しつつあるのかを、取材に基づいた豊富な具体例とともに紹介している。



津田によればソーシャル・メディアには3つの役割がある。「多様な視点」「拡散機能」「情報源」だ。これらの機能により、ソーシャル・メディアはマス・メディアに欠けている双方向性や速度を補える。津田が慎重なのは、「ネットが真実、マスコミはマスゴミ」といった簡略化された図式に頼らないところだ。テクノロジー礼賛に走るでもなく、「どうせ何をやってもかわらない」という悲観主義に陥るでもなく、ひとつひとつの事例を検討して良い点/改善点を指摘していく。例えば「事業仕分け」。民主党のこの目玉政策は、ご存知のようにネットで生中継された。ウェブにあがったものは、ソーシャル・メディアの3機能を通じて、検討すべき素材としておおくの人へ届けられ、ウェブ上に散在している有志たちにより解説が施される。ソースが可視化されるのはたしかに大切だ。しかし生のソースは、ともすれば素人には扱いきれないものでもある。だからこそソーシャル・メディアによってソースが加工され、拡散し、そして可視化されていくことは重要なのだ。このようなソーシャル・メディアによるソースおよびそれへの反応の可視化は、私たちがオヤジ・プロレス的な政局ではなく、政策そのものへのコミットを促すのだと津田は結論する。


東浩紀は『一般意志2.0』で、複雑な構造をもつ現代社会では政治参加のコストは高くなっていると指摘し、新しい政治参加の形をデザインしていくべきだと主張したが、津田が本書で紹介しているのは、東が提示したグランド・デザインを具体化したものだといえる。ソーシャル・メディアが一般化したここ数年のあいだ、私たちは私たち自身を膨大なデータとして可視化してきた。いまやそれはおおきなうねりとなって、何かを形作ろうとしている。多様な意見は、おそらく多様な意見のままだろう。ただし、ますますその数・量は膨大になり、やがて適切なインフラ整備さえ行われれば、可視化されたその意見を現実の政策へと反映させていくことができる。今回の衆院選にはまにあわなかったが、まずは選挙活動のネット解禁から変化は始めていくのが手っ取り早いだろう。本書は、変化がすぐそこまで来ていることを肌で感じさせるものとなっている。