土屋隆夫『推理小説作法 増補新版』書評
作家になりたい。なかでもミステリ作家になりたい。
そう思うミステリファンは、今も少なくないと思います。
なにを隠そう、僕もそうしたミステリファンのひとりでした。
今では、ミステリの評論をちらほら書くという立場になっておりますが、心のどこかでその夢がちらっと頭をもたげることがないとはいえません。
先日とある評論書のあとがきに、作家志望に向けた言葉を書いたこともありますが、あの言葉の裏にはかつて若かった自分の反省からのものもあったように思います*1。
ひとつの作品をかたちにするということは本当に難しい。
先日発売された土屋隆夫『推理小説作法 増補新版』は、小説誌「EQ」に1991年から1992年まで連載された創作論を柱としてまとめられた本です。そのため、2024年のいまとは状況や認識が異なるところがあるのは否めません。
しかし、作者としての生みの苦しみが全編にわたって刷り込まれており、作家志望の心を鼓舞し、支えになってくれる本は『推理小説作法』以外に思いつきません。
限界研読書会――藤田直哉『ゲームが教える世界の論点』
今回は限界研のメンバーでもある藤田直哉の書いた新書『ゲームが教える世界の論点』(集英社新書)を著者本人も交えて行った。
本書はもともとビデオゲームなどを中心にした情報サイトである「IGN JAPAN」に藤田が「SF史に残る(べき)ゲームたち」という連載をもとに再構成されたものである。
jp.ign.com
限界研読書会――杉田俊介『男が男を解放するために 非モテの品格・大幅増補改訂版』
文責:蔓葉信博
現代社会における「男性ということ」の問題は、さまざまな場面で表出している。雇用問題や男女間、はたまな家庭環境や趣味の領域まで、また女性におけるいくつかの課題は、実のところ男性側の問題であることもしばしば指摘もされる。
社会と女性との関係においては、課題は今も山積みとはいえ、フェミニズムという学問分野において検討されてきた長い歴史があり、いくつかは改善もされている。
一方、男性にまつわるあれこれの諸問題のいくつかは、そもそも問題として考えれられてこなかったものもある。それは、男性側が圧倒的にマジョリティであるがゆえであり、それは見過ごしてはならない。とはいえ、その男性もあらゆる場面であらゆる男性がマジョリティとしての強権をふるえるわけではなく、取りこぼされる一部の男性についてや、そもそも社会全体が「男性ということ」自体を要請しているという観点が議論されるようになった。そうした問題が、近年「男性学」として取り上げられるようになったのである。
限界研の会員でもある杉田俊介氏が2016年に集英社新書から刊行した『非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か』も、その男性学で欠かせぬ一冊である。
今回は、2023年にその『非モテの品格』の増補改訂版として生まれ変わった『男が男を解放するために 非モテの品格・大幅増補改訂版』の読書会(2023年11月)について、簡単にレポートする。
続きを読む限界研読書会――山崎貴監督『ゴジラ-1.0』
文責:海老原豊
山崎貴監督『ゴジラ-1.0』(以下、『マイゴジ』)が読書会の課題でした。正直、私は山崎作品を全く見たことがなく、かつ先入観で「微妙な作品なのではないか」と思っていましたが、世間の評判は良く、『マイゴジ』は気になっている作品でした。今回、読書会の課題になったのでこれを機会にと映画館に足を運んだところ、ツッコミどころは多いものの、最初の期待値が(うんと)低かったので、個人的にはそれなりに楽しめる作品でした。ふだんSFの話をしない私の知人(50代)も子供と劇場へ観にいき楽しかったと言っていて、ヒット作とはそういうもんなのだと確認した次第です。 続きを読む