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限界研読書会――山崎貴監督『ゴジラ-1.0』


文責:海老原豊
godzilla-movie2023.toho.co.jp
山崎貴監督『ゴジラ-1.0』(以下、『マイゴジ』)が読書会の課題でした。正直、私は山崎作品を全く見たことがなく、かつ先入観で「微妙な作品なのではないか」と思っていましたが、世間の評判は良く、『マイゴジ』は気になっている作品でした。今回、読書会の課題になったのでこれを機会にと映画館に足を運んだところ、ツッコミどころは多いものの、最初の期待値が(うんと)低かったので、個人的にはそれなりに楽しめる作品でした。ふだんSFの話をしない私の知人(50代)も子供と劇場へ観にいき楽しかったと言っていて、ヒット作とはそういうもんなのだと確認した次第です。
さて、私個人が感じた『マイゴジ』の良い点と悪い点を述べていきます。良い点はCG/VFXです。途中、西武園ゆうえんちの「ゴジラ・ザ・ライド」の映像経験を思い出しましたが(影響関係はあるようです)、映画館というよりアトラクション的な没入感があるシーンもありました。
www.seibu-leisure.co.jp
また、物語が予定調和的に進んでいて、大きな逸脱やどんでん返しはないものの、それゆえ安心して「感動」できる、エンタメ的なカタルシスが得られる作りになっています。いちおう褒めていますが、悪い点とも繋がっています。

悪い点(ツッコミどころ)は、ゴジラの役割です。そもそもは、戦争があってその映画的表象が初代ゴジラであったとしたら、『マイゴジ』はゴジラという映像的実体があり、それを表象したのが「俺(主人公)の戦争」に思えました。戦争は直接的には第二次世界大戦なのですが、作中で表現される戦争は特攻隊に象徴される「貧乏ぐじ」という理不尽な運命でしかなく、「誰がどうして戦争を始めたのか」「戦地はどこでどんな戦いがあったのか」、平たく言えば日本の加害責任とアジア諸国との関係が、ごっそり抜けています。(戦争を描くエンタメは、この傾向にあるので、『マイゴジ』に特有の問題ではないですが。)かつ、『マイゴジ』の物語が、特攻任務をカッコつき「機体不良」を理由に拒絶し、襲ってきたゴジラに銃を向けることすらできなかった、敷島のトラウマ(俺の戦争は終わっていない)解消に焦点をあてています。ゴジラはこれもカッコ付きの「戦争でのトラウマ解消物語」のための「ダシ(舞台装置)」にされた、と言えます。

戦争をテーマとするエンタメの歴史的問題でもありますが、加害責任や戦争加害者としてのトラウマ(帰還兵のトラウマ)を、特攻兵がだれかが引かなければならない貧乏くじを拒否したトラウマに読み替えてしまう問題が、『マイゴジ』にあります。

「貧乏くじ」も『マイゴジ』を象徴する言葉です。戦後の日本が、民主的に民間的に、安全に配慮して、かつ自由意志で「貧乏くじ」を「くじ」として選び直す。日本帝国の軍備はなく、在日米軍も協力してくれない。民間企業と元海兵たちが「自発的・自主的」に集まって、決死の任務につく。自分たちで決め、選んだことであれば、貧乏くじに納得できるし、そもそも貧乏くじですらないかもしれません。とはいえ、そもそも第二次世界大戦で、日本が「外向きの暴力」を振るったのか、「貧乏くじ」の一方「あたりくじ」もあったわけでそれは誰がどう引いたのか、は考えるべき点です。(が、そこまで含めてエンタメ的に昇華するのはもはや神業なのでしょう…。)

以上が読書会に参加した時に私が感じていたことです。

次に、読書会で話題になったことをいくつか紹介します。すべてではないです。また要約は海老原によるので、発言者の発言そのままではありません。

  • 沈みゆくゴジラに敬礼をしたのはなぜか。不可解、唐突だった、納得した、など。
  • 浜辺美波のアザは何を意味するのか。ゴジラ細胞なのか、放射能の後遺症なのか。吹っ飛び過ぎではないか。
  • 小説版はけっこうなネタバレ的情報開示がされている。パンフレットにも監督による解説(ネタバレ)がある。「あかぎ」を出したいというミリオタ的願望が、舞台をこの時代にした理由の一つのようだ。物語とミリタリーのズレはないか。
  • アメリカでは『オッペンハイマー』からの『マイゴジ』で、『マイゴジ』の評判は良いようだ。岡田斗司夫が『マイゴジ』人気を予見していた。
  • 過去のゴジラ作品との比較。ゴジラ細胞の解説。虚淵アニゴジ。
  • 垂直的に落ちる恐怖が繰り返し描かれる。ゴジラも沈む、浮かぶ、また沈む。
  • 特攻隊が自己啓発的に参照される現代。特攻隊は歴史的なものだが、歴史としてだけ参照されているわけではないのかも。
  • ゴジラが背負ってきた「戦後的なもの」がマイゴジには感じられない。クマのような凶暴な害獣。駆除しかない。
  • ゴジラが破壊する街並みが現在のものでない、海が主戦場だったのが残念。
  • 山崎監督の他の作品との比較。『ドラクエ』『アルキメデスの大戦』など。
  • 米軍不干渉はありえるのか。

真面目なゴジラファンではなく、かつ山崎監督作品も見たことがない私にとって、その他のゴジラ作品と、その他の山崎作品との比較は、たいへん勉強になりました。通時的な視点と、例えばゲームやアトラクションといった同時代の別メディアを含める共時的視点を重ねることで、作品がより立体的になりました。『マイゴジ』は『ゲゲゲ』とも比較されているので、次は『ゲゲゲ』を観てみようと思います。

www.kitaro-tanjo.com