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『海老原豊評論集』より演劇論まえがき

これまでのあらすじ☆


第15回 文学フリマに出店します!!
http://bunfree.net/


日時 11月18日(日) 11:00〜17:00
場所 東京流通センター
ブース 限界研 (エ-32)


新刊『genkai vol.2』は『渡邉大輔評論集』と『海老原豊評論集』の2本立て。

[[海老原豊評論集』より演劇論まえがき]]


演劇、といってもピンとこないかもしれない。ここでとりあげる演劇は、基本的には小劇場演劇と呼ばれる百人規模の観客席しかない劇場でおこなわれるもの。雰囲気は、インディーズバンドのライブハウスみたいだ。九十分から百二十分程度の上演時間、チケット代はだいたい二千円か三千円。大学のサークルに毛の生えたような劇団から、十年、二十年選手も中にはいる。あたりもあればはずれもあって、たいていはずれのほうが多い。それでも劇場に通い続けるのはなぜかといわれれば、一番新しい表現の形があるからだと即答している。


演劇は出来上がっている脚本を、役者が訓練によって内面化し、あたかもその場で発声しているかのように見せるもの。もちろん、登場人物の全てのセリフが別の登場人物に向けられた自然なセリフというわけではなく、ナレーションや内面の声や様々なものが入り乱れている。が、そうだとしても演劇の根本には自然/演技の対立がある。


日常生活において「キャラ」が被らないように気をつける、なんていうコミュニケーション作法がいまやすっかり常識となってしまった。そこでは意識的なふるまいは、ダメなのだ。かといって完全な無意識が許されるのは、一部の限られた「天然キャラ」認定されたものだけ。それ以外の一般ピープルはどうしても自然なキャラを演技しなければならない(それはそれで楽しいかもしれないが)。


今の時代ほど、演劇の可能性が日常生活の延長でとらえられる時代もないだろう。様々な芸術ジャンルがあるが、演劇は、例えば映画と比べて圧倒的に安いコストで芝居をすることができる。セットもロケハンもいらない。必要なのは、約束事だけ。舞台上の役者と舞台の下の観客の間で共有する約束事。これさえきっちりと作ってしまえば、舞台の上の役者は何だってできる。


いくつかの条件が重なり、今の日本の小劇場演劇には若く優秀な才能が集まっている。でも、小劇場演劇の世界は構造的にペイしにくい。能力のあるものは、どんどん小屋を大きくしていくか、テレビや映画といったもっと金になる芝居をするようになる。いつまでも小劇場でやり続けることは、難しい。登竜門だから、一番新しい表現の形が(たまに)転がっている。それを見つけるのが、とにかく楽しみなのだ。


ここから演劇論が始まる。劇団別に劇評(あれば評論)をまとめた。小劇場演劇では、芝居は基本的に、脚本家(たいてい演出家でもある)の新作書き下ろしで、ほとんど再演されることはない。つまり、一回見たら、終わり。二度と、見ることができない。DVDを売っている劇団もあるが、全てではない。そもそもDVDは芝居の一部であって、芝居そのものではない。脚本を売っている劇団もあるが、実際の芝居という「解釈」は、脚本に潜在している「可能性」とは重ならない。…とにかく、演劇は生ものなのだ。だから、単にあらすじをまとめただけの劇評でも、資料的価値はある。自分を含め、これから誰かが演出家、劇作家、劇団、役者について言説を作っていこうとするときに、(見れなかった)芝居についての知識を得る場は必要だ。物理的に観客数が限られる小劇場という場に、どのような批評空間を築けるかは未知数だ。役に立つウェブサイトはあるが、商業媒体での評論はほとんどないのが実情だ。


本書は、まずは小劇場演劇のガイドブックとして読んでもらいたい。紹介している劇団は、どれもオススメで、実際に劇場に足を運び見てもらいたいものを厳選している。劇団員だけで芝居を作れる劇団はほとんどなく、親しい役者を他の劇団から呼ぶことが多い。だからインターネットのリンクのように、一つの劇団を見ていると自然と他の劇団・役者にも詳しくなる。それをしばらく続ければ、自分の好みが見えてくるだろう。


さらにガイドブックから一歩進み、演劇について考えるための資料としてもらいたい。劇評は公演記録として、評論では芝居を見る/考えるときのヒントとして。鍵となるのは、ここでもやはり〈二項対立の運動〉だ。自然/演技を通じて、役者と観客が協力しながら約束事を構築し、演劇空間を成立させる。舞台/客席というのもまた一つの約束事。観客の協力が必須である、非常にもろい約束事。この舞台/客席の境界も、時に揺らぐ。面白い演劇は、たいていが〈二項対立の運動〉をパフォーマンスとして提示しているものなのだ。だから、本書はSFの次に演劇を〈二項対立の運動〉の具体例としている。


なお劇評には☆印による五段階評価がついている(☆は一点、★は〇・五点)。


収録劇評・評論は以下。


●柴幸男
●柿喰う客(中屋敷法仁)
●ロロ
●劇団競泳水着(上野友之)
青年団
●その他、オススメ劇団の劇評
・時間堂『月並みなはなし』
シベリア少女鉄道スピリッツ『もう一度、この手に』
・ハイバイ『投げられやすい石』
・真夏の會『エダニク』
・ろりえ『三鷹の化け物』
チェルフィッチュ『三月の5日間』
・DULL COLORED POP『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』
・サンプル『自慢の息子』
・北京蝶々『都道府県パズル』
●演劇ワークショップ体験記