9月1日に、渋谷の青山ブックセンターで、限界研の新刊『ポストヒューマニティーズ』刊行記念トークイベントが開催された。全3回のイベントレポートを掲載する。(文責、海老原豊)
(承前)
会場からの質疑。
ブルース・スターリングとの関係は?
『屍者の帝国』には、80年代っぽさがある。スリップストリームや冒険小説の体。ただし、スターリングは絶版状態で、SFプロパー以外には影響力がないという現実がある。(飯田)
「若い人は元ネタ掘りにいかない」(シノハラ)
「掘るのが偉いのは90年代までか…」(飯田)
「大学のサークルにも教養主義者はあんまりいない。楽しめばいいじゃん、という即物的な面白さ」(藤井)
「ライトノベルって唯一、過去のないジャンル。今でているものを読めばよい」(大森)
二つ目の質問。伊藤計画以後の作家、具体的には誰?
藤井が薦めたのは、野崎まど『know』(早川文庫JA)。 知る行為の変質、身体を拡張した先になにがあるのか? が描かれる。
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シノハラのオススメは、庄司創『勇者ヴォグ・ランバ』。人間の意識がなくなったあとに、意識をとりもどそうとした抵抗を描く。
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大森氏は、創元SF短編賞の受賞作(を単行本にまとめたもの)酉島伝法『皆勤の徒』(東京創元社)。まさにポストヒューマン。幻想小説風味もあるが、よくよめばイーガン的なSFになっている。といっても読むのは、なかなか大変な作品。
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シノハラが追加で、『NOVA10』(河出文庫)収録の伴名練「かみ☆ふぁみ」をあげる。
飯田は、音楽業界ではやっている「ディストピア(世界観)」について簡単に紹介。気分としてのディストピアは、成熟社会の行き着いた先なのかもしれない。
というところで、濃密な90分は過ぎ去ってしまった。
ここからはレポーターの感想。
「伊藤計劃以後」っていうくくりはアリだと思う。『ポストヒューマニティーズ』のサブタイトルに選んだから、アリだと思わなきゃならないというわけではなくて(当然!)、いち読者の肌感覚では、伊藤計劃&円城塔が作品を発表し始めたあたりから、「何か、起こりつつある」とは思っていた。
大森氏のいうように2007年をひとつの目安とするのもアリだ。飯田一史が的確に述べたように、「団塊ジュニア」といった世代論を持ち込めば、現在進行中の事態はさらに見えやすくする。『ポスヒュー』で論じられている日本SF作家の成年を調べてみると、次のようになる。
神林長平(1953年生まれ)
飛浩隆(1960年生まれ)
瀬名秀明(1968年生まれ)
八杉将司(1972年生まれ)
円城塔(1972年生まれ)
長谷敏司(1974年生まれ)
伊藤計劃(1974年生まれ)
宮内悠介(1979年生まれ)
ちなみに、セカイ系作品の代表的作者といわれる以下の3人の青年は…
高橋しん(1967年生まれ)
秋山瑞人(1971年生まれ)
新海誠(1973年生まれ)
「団塊ジュニア世代」はウィキペディアによると、狭義には「1971年から74年に生まれた第二次ベビーブーム世代」となる。
また、シノハラ&藤井が提示した「伊藤計劃性」とでもいうべき3つの要素は、かなり重要だ。繰り返すが、以下の3つ。
1 ネタのリミックス
2 社会性 (セカイ系との対比で)
3 脳・神経科学
もちろんこの3つは、別々に独立して存在しているわけではない。緩やかに、しかし確実に連動しあっている。もし強引に結びつけるのであれば、「情報環境」がざっくりと切れるキーワードだろう。ざっくりすぎるので、もう少し説明を加えてみると…
情報化社会は、「情報を有意義に使いこなす合理的な個人」などを生むことはなく、「注意力の崩壊」(『閉じこもるインターネット』より)をひきおこした。情報化社会に生きる個人は、情報を吸収するというよりも、情報によって吸収されてしまう。また、SNSなどの情報環境の整備も、個人に絶えず、個人の情報化を促すように働く。
いまの社会にいきる私たちは、情報に触れること(自身が情報となってしまうこと)によって、否が応でも社会との接点をもつ。ということで、2「セカイ系との対比での社会性」がいえる。
さらに。脳もまたひとつの情報演算装置であるという発想は、意識の解体や感覚の分解を半ば必然的にもたらす。なんら神秘的なものではなくなった脳は、スイッチのオン/オフの対象となる。もちろん、科学の進歩も背景にある。が、どうしても脳と情報化社会は、比喩的な連想を誘発する。(3「脳・神経科学」)
1「ネタのリミックス」。伊藤計劃ファンは、いままでのSFファンのように教養主義的ではない。としたときに、しかしこのような歴史から切断された楽しみ方は、なにも伊藤計劃にかぎたったことではない。ウェブに蓄積される情報をだれもが簡単にアクセスすることができるようになったので、ある意味で、歴史は消滅した。知りたいものがあれば、ググればわかる。歴史の代わりは、即応性、1「ネタのリミックス」。
だが、リミックスという言葉からわかるとおり、重要なのは手つき。「ググってわかるもの」って意外と難しくて、そもそも、それを知らないとググれないので「知識」、ググったものを上手に並べる「技術」が必要。っていう意味で、真似できそうでできない、本気なようでどこかふざけている(ようにみえる)伊藤計劃の文体が生まれる。
この続きは、10月5日のトークショーで!
限界研、最新イベント
限界研【編】『ポストヒューマニティーズ 伊藤計劃以後のSF』刊行記念
未来を産出(デリヴァリ)するために
〜新しい人間、新しいSF〜場所:ジュンク堂書店 池袋本店
開催日時:2013年10月05日(土)19:30 〜八杉 将司(日本SF作家クラブ会員)
岡和田 晃(批評家・日本SF作家クラブ会員)
海老原 豊(日本SF作家クラブ会員)★入場料はドリンク付きで1000円です。当日、会場の4F喫茶受付でお支払いくださいませ。
※トークは特には整理券、ご予約のお控え等をお渡ししておりません。
※ご予約をキャンセルされる場合、ご連絡をお願い致します。(電話:03-5956-6111)■イベントに関するお問い合わせ、ご予約は下記へお願いいたします。
ジュンク堂書店池袋本店
TEL 03-5956-6111
東京都豊島区南池袋2-15-5(以上、ジュンク堂ウェブサイトより)