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佐々木敦×藤田直哉トークイベント「虚構内存在の存在論」@東京堂書店(2014年10月17日) その4/4

虚構内存在――筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉

虚構内存在――筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉


ここからは、私の質問とそれに対する答え、そしてイベントを通じて考えたことを書いていく。


質疑応答になったので、さっそく佐々木敦に質問をしてみた。


コミュニケーションとコミットメントが前景化しているのが現代、という指摘だが、実は昔から人間が求めるのはコミュニケーションとコミットメントだったのではないか? 例えば、トークで少し話題になったデモ(在特会への言及があった)。1960年代の学生運動は、マルクス主義というコンテンツを志向しているように見えて、実はコミュニケーションとコミットメントを求めていたのではないか? 難しいマルクス主義なんて学生の大半は理解できなかったであろうし、それよりもむしろ仲間とつるんでデモ行ったり夜通し議論したり、そういうことを求めていたのではないだろうか。あるいは、80年代。ファッション雑誌で「理想のデート」が特集されれば、それをネタにコミュニケーションに励んでいた若者たちはいただろうし、浅田彰の『構造と力』はファッションアイテムとして売れた、なんてことも言われている。結局、大衆化とはそういうことで、難しいコンテンツは大衆の消費に耐えられないので、どうしてもコミュニケーションとコミットメントが前景化してしまうのではないか。

ここでの議論は、(1)コミュニケーションとコミットメントが台頭している、(2)アートにコミュニケーションとコミットメントが流入してきている、の2つだが、これはそもそも別の話のように思える。(2)はどうやら確実にそういえるが、(1)については昔から大きな変化はないのではないか?


これに対して佐々木敦は、確かにその通りだろう。だとしたら、問うべきは、どうしてコミュニケーションとコミットメント以外のものは消えていってしまったのか、ということではないのかと答えた。


ここで私の質問は終わり、別の人の質問へと移った。


以下は、佐々木の返答を受けて考えたことである。


結局、時代を経て残るものは、どうしてもコンテンツであって、コミュニケーション/コミットコミットメントを前景化した地域アートのようなものは残らない(可能性が高い)。藤田直哉も指摘しているが参加型地域アートは非物質的なものであり、その場にいあわせたものしか語れない。批評の言葉を作るのも大変で、批評したとしてもなかなか流通しない。それはコミュニケーション/コミットメントの特質であり、かつまた限界でもある。だから、言説の物量から自然に淘汰され、残る作品というのは語られやすい作品=コンテンツ志向になるのではないか。今、確かにコミュニケーション/コミットメントが注目されているが、10年後20年後に時代の傑作として語られるかどうかは、正直わからないし、語られていない可能性のほうが高い気がする。


コミュニケーション/コミットメントはかつてもあったし、今もあった。でも、かつてと今には違いがある。ネット環境の有無である。ネット環境が人々のコミュニケーションを変えた。ネット環境は、コミュニケーション/コミットメントの量も増やしただろうが、重要なのはコミュニケーション/コミットメントを可視化したことではないかと思う。コミュニケーションとは再帰的なもので、自分の振る舞いが相手に影響を与えることを織り込み、さらに自分の振る舞いを考えコミュニケーションを続けていく。可視化されることによって、かつて以上にコミュニケーション/コミットメントが重要に思えるようになったし、そしてまたそう振る舞う。


また、本は再読しない/CDは何度も聞くことの違いについて。両者の違いは言語的要約、つまり「あらすじ」を言えるかどうか、だろう。つまるところ、小説を読む楽しみの重要な部分は、あらすじの消費にあるのだ。虚構といってもいい。もちろん、あらすじに回収されないその小説独自の味付けはあるにはある。だが、あらすじを読んだだけでも、小説を語れてしまう原因はそこにある。他方で音楽。音楽は言語的要約が不可能な芸術形式だ。この区分はメタが存在できるかどうかとも関っているように思う。言語を使って対象化できるものは、メタ化しやすい一方で、それが不可能な対象は、原理的にメタ化できない。この辺、もっと掘り下げたら面白いメタフィクション論、虚構論になるのではないかと思った。特にアートという小説よりも広いスコープが持ち出されたので、アート(芸術)における虚構の存在論は突き詰める価値があるものだと感じた。

(4/4)(海老原豊


佐々木敦×藤田直哉トークイベント「虚構内存在の存在論」@東京堂書店(2014年10月17日) その3/4
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