かつて蓮實重彦はこういった。「SF映画は存在しない」と。
未来を語るはずのSFは、小説という形式に落としこまれると「過去時制」によって語られ、映画という形式を用いると、今度は「現在進行形」として表現される。それゆえに「SF映画は存在しない」のだと、蓮実はいう。
渡邉は、この蓮実重彦の「SF映画批判」を批判する。
蓮実がSF映画はその形式によって内容が空洞化してしまうのだといったことに対して、渡邉はこの形式こそが、映画という表象メディアのなかで「SF的イメージ」を豊かにしてきたのだと主張する。そしてこの形式は、産業的・技術的・表象的な、いわば映像の下部構造(インフラ)の変化から大きな影響をうけている。
渡邉は、自身の専門である映画史を丹念にひもときながら、ジャンルとしてのSF映画の位置を確認していく。古典的ハリウッド・システムにもとづいた「見えるもの/見えないもの」の緊張関係を主軸とする近代的映画から、「過剰なみせもの」「スペクタクルの氾濫」としてのポスト近代映画をたどっていく。この歴史は、フィルム・ノワールを経由しつつ、今日的なSF映画の隆盛へとスムーズに接続される。
渡邉がたどり着いたのは「フィリップ・K・ディック的なものの台頭」だ。
例えば「可能世界リアリティ」、例えば「形式の自走」、例えば「記憶=アイデンティティの曖昧化」などを、その特徴とする。
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ディック原作でいえば『マイノリティ・リポート』。
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渡邉がデジタル/ソーシャル時代のSF映画の想像力のなかで、次世代のハリウッドを担う若手として推している(=論じている)2人の監督。
一人目は、クリストファー・ノーラン、『インセプション』。
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もう一人は、J・J・エイブラムス、『クローバーフィールド』やテレビドラマ『LOST』だ。
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渡邉大輔の著作『イメージの進行形』の議論ともつながる本論文はこの10年のハリウッド/SF映画の行く先を照らしてくれる。
BookNews連動企画「SF・評論入門」もあわせてご覧ください。シノハラユウキによる4回目が掲載されました。
4回目「SF・評論入門4 あなたはロボに配慮しますか? 〜ロボット倫理学と瀬名秀明〜 シノハラユウキ」
3回目「SF・評論入門3:「伊藤計劃以後」とハイ・ファンタジーの危機――未来は『十三番目の王子』の先にある!岡和田晃」