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最新刊『ポストヒューマニティーズ』よみどころ紹介 蔓葉信博「科学幻視――新世紀の本格SFミステリ論」(2/10)

限界研、最新刊『ポストヒューマニティーズ』よみどころ紹介(2/10)。

ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF

ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF


シリーズ2回目、今回とりあげるのは、蔓葉信博「科学幻視――新世紀の本格SFミステリ論」。


『ミステリマガジン』等で執筆し、本格ミステリに造詣がふかい蔓葉信博は、本格ミステリというジャンル内からSFの新しい姿を浮かび上がらせようとしている。蔓葉がやろうとすることは「これからか書かれるべき本格SFミステリへの道筋を示す」ことだ。


と、その前に。


本格ミステリって何だろうか? それは読者が作中の謎解きを探偵とともに楽しめる「フェアプレイ精神」によって定義されるミステリ作品のことだ。


では、本格SFミステリとは? 蔓葉は「フェアプレイ精神を重んじたSFミステリ作品」だと定義した。


具体的には、アイザック・アシモフ鋼鉄都市』、続編『はだかの太陽』、J・P・ホーガン『星を継ぐもの』が、本格SFミステリに該当する。

鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)

鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)


この本格SFミステリ、たくさんあるようで、実際には傑作・名作の数はそう多くない。なぜだろうか? 蔓葉は、本格ミステリが前提としている自然の裏側にある秩序(斉一性)が、SFの作者‐読者に共有されるには、なんらかの工夫が必要とされることにその原因をもとめている。


常世界を前提としたフェアな謎解き=本格ミステリから、SF世界を舞台にしたフェアな謎解き=本格SFミステリへ。この橋渡しは、想像以上に難しい。


蔓葉は、日本における新本格ブームや、その後のゼロ年代SF/ミステリ作品をていねいに追いかける。瀬名秀明デカルトの密室』や、舞城王太郎ディスコ探偵水曜日』に、本格ミステリから逸脱するミステリの可能性を見出す。

デカルトの密室 (新潮文庫)

デカルトの密室 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

ただ、本論の射程はあくまで「本格SFミステリ」だ。そのための準備として、蔓葉は「本格SFミステリの五大要素」を抽出し、理想的な本格SFミステリ像を照射している。


SFとミステリ、ともに多くの作品に言及し、図表で整理している本論文は、ジャンル内の作品のみならず、ジャンル内の読者も相互に橋渡しできるものだ。


なおBookNews連動企画「SF・評論入門」、1回目に蔓葉信博が書いています。こちらも、ぜひご覧ください。

3回目「SF・評論入門3:「伊藤計劃以後」とハイ・ファンタジーの危機――未来は『十三番目の王子』の先にある!岡和田晃

2回目「SF・評論入門2 円城塔と宮沢賢治の意外な共通点とは?藤井義允

1回目「SF・評論入門1:滅茶苦茶なるプロの犯行『ノックス・マシン』蔓葉信博