限界研、最新刊『ポストヒューマニティーズ』よみどころ紹介(2/10)。
シリーズ2回目、今回とりあげるのは、蔓葉信博「科学幻視――新世紀の本格SFミステリ論」。
『ミステリマガジン』等で執筆し、本格ミステリに造詣がふかい蔓葉信博は、本格ミステリというジャンル内からSFの新しい姿を浮かび上がらせようとしている。蔓葉がやろうとすることは「これからか書かれるべき本格SFミステリへの道筋を示す」ことだ。
と、その前に。
本格ミステリって何だろうか? それは読者が作中の謎解きを探偵とともに楽しめる「フェアプレイ精神」によって定義されるミステリ作品のことだ。
では、本格SFミステリとは? 蔓葉は「フェアプレイ精神を重んじたSFミステリ作品」だと定義した。
具体的には、アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』、続編『はだかの太陽』、J・P・ホーガン『星を継ぐもの』が、本格SFミステリに該当する。
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この本格SFミステリ、たくさんあるようで、実際には傑作・名作の数はそう多くない。なぜだろうか? 蔓葉は、本格ミステリが前提としている自然の裏側にある秩序(斉一性)が、SFの作者‐読者に共有されるには、なんらかの工夫が必要とされることにその原因をもとめている。
日常世界を前提としたフェアな謎解き=本格ミステリから、SF世界を舞台にしたフェアな謎解き=本格SFミステリへ。この橋渡しは、想像以上に難しい。
蔓葉は、日本における新本格ブームや、その後のゼロ年代SF/ミステリ作品をていねいに追いかける。瀬名秀明『デカルトの密室』や、舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』に、本格ミステリから逸脱するミステリの可能性を見出す。
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ただ、本論の射程はあくまで「本格SFミステリ」だ。そのための準備として、蔓葉は「本格SFミステリの五大要素」を抽出し、理想的な本格SFミステリ像を照射している。
SFとミステリ、ともに多くの作品に言及し、図表で整理している本論文は、ジャンル内の作品のみならず、ジャンル内の読者も相互に橋渡しできるものだ。
なおBookNews連動企画「SF・評論入門」、1回目に蔓葉信博が書いています。こちらも、ぜひご覧ください。
3回目「SF・評論入門3:「伊藤計劃以後」とハイ・ファンタジーの危機――未来は『十三番目の王子』の先にある!岡和田晃」