限界研blog

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「ぼくたちのかんがえた伊藤計劃以後」2013年9月1日@青山ブックセンター (1/3)

9月1日に、渋谷の青山ブックセンターで、限界研の新刊『ポストヒューマニティーズ』刊行記念トークイベントが開催された。全3回のイベントレポートを掲載する。(文責、海老原豊


司会は飯田一史、ゲストに大森望、20代論客としてシノハラユウキと藤井義允。


サブタイトルには「20代批評家Vs.大森望!!!」とある。「Vs.」とあるが、そこまで対決姿勢はない。若手評論家からみたSF、特に伊藤計劃(的なもの)と、大森望氏をぶつけてみようというのがこのイベント。


『ポストヒューマニティーズ』のサブタイトル「伊藤計劃以後のSF」のおおもとは『SFマガジン』での特集号だ。『ポスヒュー』出版後、「伊藤計劃以後のSF」という言葉そのものは、ネット界隈で多少バズりつつ、いまだ輪郭がぼんやりとしている。このトークショーはそんな「伊藤計劃以後」について具体的に検討してみて、2010年代の日本SFに何が起こっているのか(起こりつつあるのか)を見てみようというものだ。


本編は文学フリマで出版予定の『genkai vol.3』に再録予定。


まずは各人の自己紹介からスタート。


自己紹介が不要なほどに著名な大森望氏は、20代論客の「お父さん」ともいえる世代。「伊藤計劃以後ってあるよね派」として、早々と自己規定をする。といっても、大森氏のいう「伊藤計劃以後」は、具体的には伊藤計劃円城塔がデビューした2007年以降を指している。


ゲンロンカフェでの「伊藤計劃以後のSF」イベントでも、かなりの集客があったようだ。普段SFのイベントに来ないが、伊藤計劃という固有名には惹かれ、そして「もっと知りたい!」という気持ちでお金を払ってイベントに参加する人、特に若い人は、けっこういるのだと、大森氏は率直な感想をもらした。


限界研の最年少論客、藤井義允は1991年生まれ。『ポスヒュー』では円城塔論を書いたが、他のSF作品では神林長平『言壺』が好き。実は、体系的にSFを読んできたわけではない。石原慎太郎による円城塔批判への批判、をもう少し言語化してみようと今回の論文を書いた。


シノハラユウキ、はてなブロガー。同人誌『筑波批評』をひっさげて東浩紀ゼロアカ道場に殴りこみ! それ以来、批評活動を続けている。限界研には今回が初参加。瀬名秀明の短編小説「希望」が「難しかった」、その理由を、瀬名秀明論(作家論)と、「亜人」(人に近い・人ではないもの)から論じてみたのが『ポスヒュー』所収の論文。


飯田一史は、『ポスヒュー』が生まれるにいたった経緯を簡単に紹介。大学生を含めた限界研メンバーで、SFをメイントピックにしてブレイン・ストーミングをしたら、「キャラクター」についての意見がたくさん出てきた。また、10代の読書傾向を調べても、SFへの関心はかなり高い。などが『ポスヒュー』出版の背景にはあった。


一通り、自己紹介がらみの『ポスヒュー』解説が終わると、飯田&大森氏から、「ゼロ年代SF」の状況説明がなされる。


ゼロ年代前半、ラノベからSFという流れはあった(例、冲方丁)。また「リアルフィクション」という名称で、ハヤカワJA文庫が、ライトノベル作家を積極的に登用した。ハヤカワJコレクションの開始が2002年。「帯にSFと書いてあるものは、ほとんど出版されない」(大森)という時流だったようで、当時と比べると、今の状況はだいぶ変わってきたことがわかる。


『ポスヒュー』の巻頭言で藤田直哉が言っている通り、今、日本のSFは「夏(*1)」を迎えているのだ!


(*1)海老原による注釈

……手元にある『SFマガジン』(2013年10月号)をパラパラと見ていたら、神林長平が「いま集合的無意識を、」で星雲賞を受賞したときのコメント「いわゆる人生の黄昏を意識し始める年齢になると、夏を過ごすのが難儀で苦手になってくる。このところの夏はことに猛暑で、凛とした冷気の冬が恋しくなったりする。もちろんぼくはSFのことを言っているのだけれど」


ひええ…。


神林長平「いま集合的無意識を、」については、次回に続く。(1/3)


限界研、最新イベント

限界研【編】『ポストヒューマニティーズ 伊藤計劃以後のSF』刊行記念
未来を産出(デリヴァリ)するために
〜新しい人間、新しいSF〜

場所:ジュンク堂書店 池袋本店
開催日時:2013年10月05日(土)19:30 〜

八杉 将司(日本SF作家クラブ会員)
岡和田 晃(批評家・日本SF作家クラブ会員)
海老原 豊(日本SF作家クラブ会員)

★入場料はドリンク付きで1000円です。当日、会場の4F喫茶受付でお支払いくださいませ。
トークは特には整理券、ご予約のお控え等をお渡ししておりません。
※ご予約をキャンセルされる場合、ご連絡をお願い致します。(電話:03-5956-6111) 

■イベントに関するお問い合わせ、ご予約は下記へお願いいたします。
ジュンク堂書店池袋本店
TEL 03-5956-6111
東京都豊島区南池袋2-15-5

(以上、ジュンク堂ウェブサイトより)