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限界研、新刊『ポストヒューマニティーズ』よみどころ紹介(8/10) 飯田一史「ネット小説論――あたらしいファンタジーとしての、あたらしいメディアとしての」

ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF

ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF

限界研、新刊よみどころ紹介の8回目。今回は、飯田一史「ネット小説論――あたらしいファンタジーとしての、あたらしいメディアとしての」をご紹介。


現在、SF/ファンタジーファンがほとんど目を向けてないところで進行中の、あたらしいファンタジー・ムーブメントが存在する。それは何か。

ネット小説だ。


今まで論じられてきた現代SF作家の作品とは一転、ここではネット界隈で活躍する作家・作品について言及される。


例えば、吉野匠『レイン』、柳内たくみ『ゲート』、ボカロ小説の悪ノP『悪ノ娘』、じん(自然の敵P)『カゲロウデイズ』などなど。

レイン〈8〉孤高の戦士

レイン〈8〉孤高の戦士

悪ノ娘 黄のクロアテュール

悪ノ娘 黄のクロアテュール


古参のSF読者だと「?」が出てしまうような人物たちかもしれない。また、蔑視を向ける人もいるかもしれない。「こんな作品が人気なのか?」と。

だが、これらのネット小説が今、ムーブメントを起こしている。ビートルズ」やかつてのSFを見ても分かるように、もともと批判されていたようなものは転じて歴史的なものになることはよくあることだと飯田は強く述べる。そして、ネット小説はそんなあたらしい文化を作る一つとして論じていく。


飯田論文では、既成ファンタジーライトノベル、ネット小説のそれぞれの物語に対して読者が求めているものを考察していく。

一体、今までのファンタジーライトノベルファンタジー、ウェブファンタジーは一体何が違うのか。

自身の著書、『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』も参考にしつつ明らかにする。

ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略

ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略


そして、この論文の読みどころの一つとしては、ただの作品解析だけではなく、マーケティングを視野に入れた批評だということだ。


ムーブメントを作っているのは何より読者がいるからであり、作品が多く需要されなければ起きないこと。読者が作品を享受するためには、必然的にマーケットの力学が働いてくる。そこで、飯田はビジネス的な視点からもムーブメントの原因を考察している。


また、飯田一史自身、ネット小説に関して、様々な場所で論じている。その一部はネットでも間見ることができる。

*「ネット小説のいま


*「Book News オタク第3世代の俺がボカロ小説についてひとこと言っておくか


その分析・主張は一貫しており、併せて読むとなお面白い論考になっている。


今回の飯田論文では、ネット小説やウェブファンタジーを「あたらしいSF」として「ソーシャル・フィクション」と名付けている。これはSFというジャンルを刷新する新たな概念だろう。


SFというジャンルに風穴を開け、あたらしい風を送り込むような鋭い論考。


飯田論文はあたらしい時代のあたらしいSFを私たちに発見させてくれる。

詳しい内容は『ポストヒューマニティーズ』で。