限界研blog

限界研の活動や記事を掲載します。

揺動メディア、入門書、ルック批評

はじめまして、佐々木友輔と申します。映像作家・企画者を名乗り、各所で映画上映や展覧会運営、執筆活動をおこなっています(11月21、22日には新宿で新作上映がありますので、ご興味を持たれた方はぜひご覧下さい。このたびは、編者の渡邉大輔さんのお誘いで、限界研の新刊に参加させていただきました。「三脚とは何だったのか――映画・映像入門書の二〇世紀」と題した論考を寄せています。


さて、わたしが映画の制作・上映活動を続ける中で、至る所で繰り返し耳にしてきたのが「安易な手ぶれ映像」という言葉です。映画批評や感想サイトなどを読む方であれば、きっと同じような文面に何度も出くわしたことがありますよね。古くから様々な作品に登場しているのに、どうも肩身が狭い手ぶれ映像。実際に撮ってみるとすごく奥が深くて難しいのに、「お手軽に臨場感を得られる」とか「ドキュメンタリー・タッチ」という言葉でざっくりまとめて切り捨てられる、かわいそうな手持ち撮影……。


実はわたしは、そんな揺れる映像、震える映像にこそ惹かれて映画を観てきたし、つくり続けてきたのでした。だから正直、上記のような状況にはちょっと耐えがたいものがある。手持ち撮影を「立場なき」手法から救い出したい。その魅力を、奥深さを伝えたい。というわけで立ち上げたのが「揺動メディア論」です。それは、「今日までのあらゆる映画史はカメラが三脚によって固定された歴史である」と仮定した上で、「何ものにも固定されず、カメラが揺れ動き続けている状態」を基本とする映画史を新たに構想するという、ニッチな、しかしおそろしく壮大な計画なのです。


「三脚とは何だったのか」は、この揺動メディア論の一環です。まずは、この100年の間に日本で刊行された映画制作の教科書・入門書から、「カメラワーク」に関する記述を抽出・分析し、時代毎の三脚観・手持ち撮影観の変遷を追っていく。さらにそこから、三脚を「前提としない」映画史を描く手掛かりとなるような記述、作品、作家を探し出すという構成になっており、最終的には個人映画作家かわなかのぶひろ氏と原将人氏の代表作『キック・ザ・ワールド』と『20世紀ノスタルジア』を、揺動メディア独自の美学を持つ作品として論じています(原監督はちょうど新作『あなたにゐでほしい』が各地で上映中ですので、ぜひ併せてご覧ください。)。


20世紀ノスタルジア デラックス版 [DVD]

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また今回は「カメラワーク」の記述に絞りましたが、入門書の分析はまだまだ色々やってみる価値がありそうです。先駆的な揺動メディア論と言える『小型映画の知識』(北尾鐐之助+鈴木陽、創元社、1932年)、入門書というにはあまりに過激な誘惑に満ちた『映画を楽しくつくる本 : 55の低予算ノウハウ』(山崎幹夫ワイズ出版、2004年)、映画史と新しいテクノロジーの出会いを熱く描いた『iPhoneで誰でも映画ができる本』(樫原辰郎+角田亮、キネマ旬報社、2011年)、など、実作者でなくともきっと楽しく読めると思います。


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最後に、まだ漠然とした印象にすぎないのですが、ここ10年ぐらいの入門書は「ルック」(画面全体の雰囲気、質感)についての記述がk手厚くなっている感じがあり、注目しています。映画の運動を記述する試み(揺動メディア論も含まれるでしょう)に対して、ルック批評はまだまだ数が少ない。私自身、それに強い関心を持つようになったのはつい最近、映像作家のudocorgさんに色々と教わってからのことです(udocorgさんには今回の書籍のカバーデザインもご協力いただきました)。


デジタル技術の発展により映像操作の自由度が増していく一方で、「映像の構造を問い直す」系の作品がいかにも「映画的」なルックを無自覚・無批判に採用していたり、ある種のルックが「映画」か「映画でない」かの選別基準になっていたり(シネマティック・ルッキズムとでも呼びましょうか)している現在、「ルック」の検討は作家にとっても批評家にとっても重要な課題となっているのではないか? と、思うのですが、いかがでしょうか。

佐々木友輔氏も登壇するイベントがあります!

「「動画の時代」の「映画批評」はいかに可能か
ポストメディウム的状況を考える
『ビジュアル・コミュニケーション』(南雲堂)刊行記念トークイベント」

ジュンク堂書店 池袋本店
開催日時:2015年11月17日(火)19:30 〜
書店ウェブサイトへ

佐々木友輔×三浦哲哉×渡邉大輔 (司会進行:冨塚亮平)

ここ最近、映画の世界は大きな変化を迎えている。誰でもスマホで「映画」っぽいものが作れ、ネット上にはVine動画やゲーム実況など、いままで見たこともないような新しい映像コンテンツが映画と肩を並べるようにして、活況を呈するようになりつつある。
『映画とは何か』(筑摩書房)など、映画の現在について先鋭な批評活動を繰り広げる俊英・三浦哲哉氏をゲストに迎え、9月末刊行の評論集『ビジュアル・コミュニケーション――動画時代の文化批評』(南雲堂)の内容を踏まえ、こうした「動画の時代」にかつての「映画批評」はどのように対応していくべきなのか。『ゼロ・グラビティ』『親密さ』 『ルック・オブ・サイレンス』『THE COCKPIT』……などなど、数々の話題作を
素材に、そして映画誕生120年の現在、あらためて「映画」と「映像」の関わりについて「映画批評」の観点から徹底的に語り合う。