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飯田一史『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』 連日掲載クロスレビュー【評:藤田直哉】

飯田一史『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』

評者:藤田直哉

 正直、このクロスレビューには気が乗らなかった。知り合いや身内のものを評論してしまうとどうしても甘くなり、内輪で褒めあっているものを外部から見たらさぞかし「寒い」だろうと思ったからである。なので、読んでみて、つまらなかったら断ろうと思っていた。今ここにこうして文章が載っているということは、そうではないと思ったからである。

『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』はハルヒ以降のamazonで一位になったライトノベルを中心に、経営・経済の視点を組み込んだ文芸評論を展開している。平易な文体で、経営の視点を盛り込んだ「文芸評論」自体は文芸評論を更新している。「セカイ系」以降の作品はこんな風になっていたのか、第四世代のこんな風に消費されていたのか、と、率直に驚き、いくつも目から鱗が落ちた。実際、最近のライトノベルとかアニメを見ていて「よくわかんないなー」と思っていた部分の疑問がある程度氷解した。それは、東浩紀の『ゲーム的リアリズムの誕生』や『動物化するポストモダン』の論じたオタク像とはまったくかけ離れた像だった。

「売れればいいのか」とか「売り上げ至上主義」的な内容かと誤解されるかもしれないが、抑えに抑えた筆致の中で、最後にその根底にある優しさが垣間見えるところが良い。ライトノベル業界についての誤解をして夢を抱く作家志望者へのアドバイスであり、ライトノベル編集者であった自分の「罪滅ぼし」として本書は書かれている。情熱は、抑えられているが、決して無味乾燥で冷徹なマーケティング本ではない。

 この内容と文体からは、オタク像やオタク評論の言葉を根本的に変えてしまおうという強い意志を感じる。そして本書はそれに成功している。このライトノベル論が登場したことによって、色々な人、特にサブカル批評クラスタの作品に対する語りがどんな風に変化していくのか楽しみだ。


藤田直哉(ふじたなおや)
1983年札幌市生まれ。SF・文芸評論家。「消失点、暗黒の塔」で日本SF評論賞・選考委員特別賞を受賞して評論活動を開始(『S-Fマガジン』2008年6月号)。『ダ・ヴィンチ』にて新井素子と「SUPPLEMEMT FICTION」連載中。 東京工業大学価値システム専攻博士課程在学中。
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