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飯田一史『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』連日掲載クロスレビュー【評:宮本道人】

飯田一史『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』

評者:ドージニア道人


 いつかライトノベルを書きたいなぁ、と思っている若者には、とても実用的に役に立つ本。ライトノベルを作品の良し悪しで評価するのではなく、淘汰に勝ち残る理由を考えている本なので、自分でライトノベルを書こうと思った時には、作風と関係なく本書の方法論を適用する事ができる。
 「好きなもの擁護」でなく、売れたものだけを分析するという姿勢を貫いており、独りよがりに陥っていない点に好感が持てる。言いたい事に合わせ恣意的に作品を選ぶようなやり方はせず、作品に合わせて言いたい事を作り出しているのが特徴的だ。

 経済的な見方で定量的に成功要因を分析したり、経営学の手法を用いて売れる方法を図で分類・整理していったりする本書のスタイルは、精神論で終わる啓蒙本と違って非常に現実的だ。作者がグロービス経営大学院在学中である強みを存分に生かしていると言えるだろう。
 そんな、思想でなく事実を扱い、虚学でなく実学を見せようとするタイプの本である本書だが、時に「イタい」造語を作って用いる語り口の熱さは、作者が言いたい思想を持っている事を感じさせ、これが単なる「使える本」に留まらない事を示している。堅苦しい分析と小説の内容解説の配分もちょうど良く、飽きずに読み進める事が可能である。

 ちなみに、作者のブログの2012年4月30日の記事を読むと、こんなことが書いてある。「作家や作家志望者のほうが批評家や批評家志望よりパイが大きく、創作論はそうそう古びたりしない」「原理論っぽいものを書くと残る。文芸評論において大事なことはキー概念を提示することだ」。つまり、作者が創作論を書いて、造語を作っているのは、自分の考える方法論に乗っ取っているのだろう。
 また、本書では、ライトノベル作家に求められる三つの要素として、「スピード」「パッション」「オタクであること」の三つが挙げられているが、本書はライトノベルそのものではないにせよ、その三つにも従っている。なるべく最近の作品を論じているという「スピード」、作品への愛を語る「パッション」、造語をあえてイタい言葉に作る「オタクであること」。このように、自分の考える方法論を自分で実践する事で、本書は作者の方法論の正しさを自身で示そうとしているようだ。

 内容としては、ライトノベルがある意味双方向のツールだという指摘が非常に面白かった。少し自分でもそれについて考えてみたのだが、ラノベ作家が中高生と共有できるネタをニコニコ動画仕入れる→それをラノベに書く→アニメになる→ニコニコで放送されたりMADになったりして作家が書いたそのネタがニコニコでピックアップされる→他のラノベ作家がそのネタを使う、みたいな感じで、ジャンルとしては読者と双方向になっているのが自分でも納得できた。
 内容だけでなく、構成も分かりやすくて非常に良い。最初に全体像を完全に示し、次に具体例を羅列し、その次で定量的分析をし、最後にどうそれらを生かすかをまとめている。また、そのように売れる方法を分析してきたのに、一番最後にそれだけが道ではない事を、作者がライトノベルの元編集者であった時の実体験から示すという構成は渋くて格好良い。「俺の犠牲を無駄にせず、お前はうまくやってくれ」的なアクション映画のクライマックスのようで、シビれる(笑)
 ライトノベルを書く時には手元に置いておきたい一冊だ。

ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略

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