限界研blog

限界研の活動や記事を掲載します。

限界研、新刊『ポストヒューマニティーズ』よみどころ紹介 藤田直哉「新世紀ゾンビ論、あるいはHalf-Life(半減期)」(4/10)


ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF

ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF


4回目は藤田直哉「新世紀ゾンビ論、あるいはHalf-Life半減期)」。


今、ゾンビが熱い! 

動き回る屍者であるゾンビが熱いとは何事か、と思われるかもしれない。たしかに熱い(冷たくない)ゾンビもいるのだが、それはともかく、今や世間はゾンビブームなのだ。


「え、ゾンビ? ロメロのやつでしょ? ショッピングモールを徘徊する消費社会のさまよえる主体ってやつ? 何をいまさら…」と言いたくなる人もいるかもしれない。


断言するが、そのようなゾンビ像は古い。


藤田直哉は、ロメロの近代ゾンビの特徴を(1)遅い、(2)腐っている、(3)感染する、(4)理性がないとしたうえで、新世紀のポストモダン・ゾンビの特徴として次の4点をあげる。


(1)速い
(2)必ずしも腐るわけではない
(3)感染しないように管理もできる
(4)理性がある場合もある


花沢健吾アイアムアヒーロー』、はっとりみつるさんかれあ』、『魔法少女まどか☆マギカ』、木村一心『これはゾンビですか?』、エドガー・ライトショーン・オブ・ザ・デッド』などを、ポストモダン・ゾンビが登場する作品としてとりあげている。


アイアムアヒーロー 1 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 1 (ビッグコミックス)


しかし、ひょっとしたらコアな映画ファンのなかには、このポストモダン・ゾンビの4つの特徴を見て、「こんなのゾンビじゃない!」と思うものもいるかもしれない。


では逆に聞こう。いったい何がゾンビなのか?

藤田は膨大なゾンビ作品(映画、マンガ、ゲーム)を縦横無尽に読み解きながら、ゾンビの本質を「メディアの衝突」にみる。映画(フィルム)、ビデオ、DVD、ゲーム、スマホタブレット…次々にゾンビたちは、自身を増殖させるための新しい場所=メディアを見つけては、感染させていく。


本論は2部構成となっていて、1部はこのメディア内存在としてのゾンビを徹底的に追求していく。2部では、伊藤計劃×円城塔屍者の帝国』、ゲーム『Deus Ex: Human Revolution』、長谷敏司BEATLESS』などを論じながら、人間とゾンビの共存可能性(!)を模索する。


屍者の帝国

屍者の帝国

デウスエクス【CEROレーティング「Z」】 - PS3

デウスエクス【CEROレーティング「Z」】 - PS3

BEATLESS

BEATLESS

人間とゾンビの共存? これは冗談ではない。ゾンビの本質や、現代社会におけるその役割を考えると、必然的に人間の「生」の感覚の変化に気がつくのだ。ゾンビを異物として駆逐するのではなく、私たちの「生」の一部(隠喩)として受け止めること。


藤田論文は、ゾンビに劣らない強力な感染力で読者の感性をハッキングするだろう。


読み終わったものは誰もがこういいたくなるはずだ。「今、ゾンビが熱い!」

BookNews連動企画「SF・評論入門」もあわせてご覧ください。

3回目「SF・評論入門3:「伊藤計劃以後」とハイ・ファンタジーの危機――未来は『十三番目の王子』の先にある!岡和田晃

2回目「SF・評論入門2 円城塔と宮沢賢治の意外な共通点とは?藤井義允

1回目「SF・評論入門1:滅茶苦茶なるプロの犯行『ノックス・マシン』蔓葉信博