4回目は藤田直哉「新世紀ゾンビ論、あるいはHalf-Life(半減期)」。
今、ゾンビが熱い!
動き回る屍者であるゾンビが熱いとは何事か、と思われるかもしれない。たしかに熱い(冷たくない)ゾンビもいるのだが、それはともかく、今や世間はゾンビブームなのだ。
「え、ゾンビ? ロメロのやつでしょ? ショッピングモールを徘徊する消費社会のさまよえる主体ってやつ? 何をいまさら…」と言いたくなる人もいるかもしれない。
断言するが、そのようなゾンビ像は古い。
藤田直哉は、ロメロの近代ゾンビの特徴を(1)遅い、(2)腐っている、(3)感染する、(4)理性がないとしたうえで、新世紀のポストモダン・ゾンビの特徴として次の4点をあげる。
(1)速い
(2)必ずしも腐るわけではない
(3)感染しないように管理もできる
(4)理性がある場合もある
花沢健吾『アイアムアヒーロー』、はっとりみつる『さんかれあ』、『魔法少女まどか☆マギカ』、木村一心『これはゾンビですか?』、エドガー・ライト『ショーン・オブ・ザ・デッド』などを、ポストモダン・ゾンビが登場する作品としてとりあげている。
- 作者: 花沢健吾
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/08/28
- メディア: コミック
- 購入: 15人 クリック: 2,267回
- この商品を含むブログ (208件) を見る
- 作者: はっとりみつる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/06/07
- メディア: コミック
- この商品を含むブログ (11件) を見る
魔法少女まどか☆マギカ コンプリート DVD-BOX (12話, 283分) まどマギ アニメ [DVD] [Import]
- メディア: DVD
- 購入: 2人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (24件) を見る
これはゾンビですか?13 いいえ、全く記憶にございません (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 木村心一,こぶいちむりりん
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2013/05/18
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (4件) を見る
- 出版社/メーカー: ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
- 発売日: 2004/12/22
- メディア: DVD
- クリック: 103回
- この商品を含むブログ (68件) を見る
しかし、ひょっとしたらコアな映画ファンのなかには、このポストモダン・ゾンビの4つの特徴を見て、「こんなのゾンビじゃない!」と思うものもいるかもしれない。
では逆に聞こう。いったい何がゾンビなのか?
藤田は膨大なゾンビ作品(映画、マンガ、ゲーム)を縦横無尽に読み解きながら、ゾンビの本質を「メディアの衝突」にみる。映画(フィルム)、ビデオ、DVD、ゲーム、スマホ、タブレット…次々にゾンビたちは、自身を増殖させるための新しい場所=メディアを見つけては、感染させていく。
本論は2部構成となっていて、1部はこのメディア内存在としてのゾンビを徹底的に追求していく。2部では、伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』、ゲーム『Deus Ex: Human Revolution』、長谷敏司『BEATLESS』などを論じながら、人間とゾンビの共存可能性(!)を模索する。
- 作者: 伊藤計劃,円城塔
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/08/24
- メディア: 単行本
- 購入: 43人 クリック: 1,717回
- この商品を含むブログ (191件) を見る
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2011/10/20
- メディア: Video Game
- 購入: 2人 クリック: 51回
- この商品を含むブログ (34件) を見る
- 作者: 長谷敏司
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/10/11
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 78回
- この商品を含むブログ (49件) を見る
人間とゾンビの共存? これは冗談ではない。ゾンビの本質や、現代社会におけるその役割を考えると、必然的に人間の「生」の感覚の変化に気がつくのだ。ゾンビを異物として駆逐するのではなく、私たちの「生」の一部(隠喩)として受け止めること。
藤田論文は、ゾンビに劣らない強力な感染力で読者の感性をハッキングするだろう。
読み終わったものは誰もがこういいたくなるはずだ。「今、ゾンビが熱い!」
BookNews連動企画「SF・評論入門」もあわせてご覧ください。
3回目「SF・評論入門3:「伊藤計劃以後」とハイ・ファンタジーの危機――未来は『十三番目の王子』の先にある!岡和田晃」