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早川Jコレクション読破への道 第2回 上田誠『曲がれ! スプーン』

これまでのあらすじ
ゼロ年代の日本SFを牽引してきた早川書房のSF叢書シリーズ「ハヤカワJコレクション」。全作品読破&レビューを目指して、一人の男が立ち上がってみたものの…。

曲がれ!スプーン (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

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曲がれ!スプーン [DVD]

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演劇はSFと相性がよい。莫大な予算でしか作り出せないSF表現を、一つのセットと役者の芝居で観客に「信じさせる」ことはできるからだ。役者と観客が約束事を共有し、世界を生み出すことに成功すれば、あとはやりたい放題。それがSF演劇の醍醐味。Jコレクション唯一の戯曲集である本書には「曲がれ! スプーン」と「サマータイムマシン・ブルース」、おまけ短編一つが収録。著者が作・演出を務める劇団・ヨーロッパ企画のために書いたもので、何度かの再演を経て、ともに本広克行の手によって映画化された。


「カフェ・ド・念力」という喫茶店で開かれたエスパーたちのクリスマス・パーティー。迷い込んだ「びっくり人間」と、彼を取材しに来た超能力番組のAD。超能力者と世間に知られるとまずい、けれど、この世に超能力なんていないと思われたくない。スプーン並みに曲がったエスパーたちの気持ちが優しく聖夜を飾る「曲がれ! スプーン」。SFを研究しない大学SF研究会の部室で発見されたタイムマシン。ようやくSF研らしくなったと妙な自信を持った部員たち(全員、男)は、クーラーのリモコンが壊れていたので、壊れる前のものを手に入れようとマシンを動かす。タイムパラドックスに気付いた部員が慌てて止めるが、ひとたび動き出すと止まらないドタバタ劇を描く「サマータイムマシン・ブルース」。映画であればシーンを変えられるが、演劇で背景を変えることは物理的に不可能。本作は脚本の妙で、タイムパラドックスという複雑な事象を見事に現出させている。