3回目は若き新鋭、藤井義允。
タイトル、「肉体と機械の言葉 ――円城塔と石原慎太郎、二人の文学の交点」。
この論文は、ある意味で一番ショッキングかもしれない。なぜなら、円城塔と石原慎太郎という、接点などほとんどないように思える作家をとりあげ「交点」をさぐるのだから。そんなものあるのか? いぶかしく思うの当然だ。
石原慎太郎は、円城作品への不快感をかくさない。
円城が芥川賞をとったとき、選考委員のひとりだった石原は「言葉の綾とりみたいなできの悪いゲームに付き合わされる読者は気の毒というよりない」という辛辣な言葉を吐いている。
しかし藤井はいう。「石原慎太郎文学と円城塔文学には共通しているものがあるのではないか」と。
まず藤井は、「難解」とされる円城塔の作品を分析する。円城の難解さを単なるストーリー上の難解さ(謎)とは位相を別にするものだとし、その原因を構造にもとめる。
藤井がとりあげるのは「Boy's Surface」、芥川賞受賞作『道化師の蝶』、『これはペンです』だ。円城塔の難解さの向こうから、藤井は「構造」「設計図」「機械」といった概念をとりだす。
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対して、石原作品は「太陽の季節」「院内」(『生還』所収)、それに文学論を分析している。また、江藤淳による石原論も紹介している。いまやすっかり政治家となってしまった石原慎太郎だが、江藤淳は「彼が政治家になることはない」と断言している。なぜ、江藤は石原は政治家向きではないと考えたのか? 石原は言葉や肉体、暴力についてどう思っているのか?
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これらに、円城との接点をさぐるヒントを藤井はみつける。
早川書房のSFレーベルからデビューし、芥川賞を受賞した作家・円城塔。ともすれば「位置づけ」に迷う作風。藤井論文は、円城塔の収まるべき場所を模索する、野心作だ。
BookNews連動企画「SF・評論入門」の2回目は藤井義允です。
3回目「SF・評論入門3:「伊藤計劃以後」とハイ・ファンタジーの危機――未来は『十三番目の王子』の先にある!岡和田晃」